ポチとの出会いと捜索願い

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みんなにとっちゃどうでもいい出来事

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ポチは俺が拾ってきた犬だった。
小学3年生の頃親友のあっちゃんと鏑木さんの家に行った。ちなみにその時一緒にいたキラー君はミニ四駆で遊んで屋上から落とした。
鏑木さんとは頻繁に家へ遊びに行くほどの仲ではなかったけど、同じ班になったから班会議をするために行った。
学校帰りのまま鏑木家へ行き、そこから帰ろうとしていた途中ベッチョとごうちゃんに会った。
ひかり幼稚園の園内にある墓場の離れに物置き場があって、彼らはそこに入りこんでいる子犬を救出しているのだと言った。
僕は虫が嫌いだったから狭い物置の縁の下に入るのがいやで、外でその作戦を見守っていた。
遠巻きに覗きこんでみると確かに何匹もの子犬がいるのが見えた。
「救出してあげてる」と今思えば恩着せがましいながらも、その時はもちろん一生懸命。
ペンキのついた棒を粘着テープのようにして使ったり、腕を伸ばしたりして子犬達を外に出していった。
その過程はとても険しく、ペンキのついた真っ白な犬や、白黒のブチの犬などのオスメスが現れた。
「ぴぺぽくんの家で一匹飼ってあげれない?」そうべっちゃんに言われて、(親に反対されるから)とか色々考えながらも、不思議と断る気はしなくて、一番おとなしい奴を選んだ。
白と黒の模様がきれいでかわいいメスだった。


その日より少し前。
僕はぬいぐるみで遊んでいた。
自分に懐いたかわいい子犬がほしかったから、空き箱に犬のぬいぐるみを入れて汚い字で「ぽちのいえ」と書いて人形ごっこをしていた。
男の子なのに僕は小学校を卒業するまでこっそり空想の世界を持っている子供だった。

どの犬にしようかと色々触ってみると、多くの犬は反発して抱かせてくれなかった。
だから一番おとなしくて弱そうな犬にした。
白と黒のきれいな犬を抱きかかえてなるべく動かさないように注意しながらいると、子犬は静かに眠っていった。
それが自分に懐いてくれたような気がして、無理を承知で持ちかえる事にした。
あっちゃんはペンキの少しついた真っ白な犬を持って帰る事にしたみたいだった。
ベッチョ達はやっぱり子供なりの善意で子犬達の命を救おうと、いらぬおせっかいをしていたのだろうけど。

それからどれくらいかかってか子犬を起こさないように、細心の注意を払いながら静かに家に帰った。
いつの間にか周りは夜で子犬を抱える子供の姿を自分で見れているような不思議な時間だった。

 家の近くにある学校のそばまで帰ってくると「ピペポ!」という大きな声が聞こえて、不思議な時間から引き戻され我に返った。
子犬に向けていた視線を前に向けると、今ではもう無いベージュ色のママチャリを漕ぎながらこちらへ走ってくるお母さんが見えた。
「何処行ってたの!」そう叫びに近い声で怒鳴る母に、なるべく事を小さく納めたい僕は「犬拾ってた」と言葉少なめに答えた。
それにも負けず母は、俺が帰ってこないから心配して学校に連絡して、捜索願いまで出したという事を、足早にまくし立てて説明した。
どうやら今頃、ぴぺぽ捜索隊は手賀沼にボートで漕ぎ出し竹の棒を使って探しているらしかった。
後に母さんは学校の先生に「大丈夫 ぴぺぽ君は生きてます! きっとどこかにいます」と励まされていたらしく、とても大変な事になっていたのだけれど、時間の感覚が無い小学生の自分には大げさにしか見えなかった。
 そのまま母さんの自転車の後ろに乗り職員室まで謝りに行った。

家に着いてもおばあちゃんを先頭に、同じ事を聞かれまくって忙しい政治家みたいな気持ちになった。
さっきまで大げさに見えたおかあさんが味方に思えるくらい。「そんな事より、犬拾ってきたんだ」って、飼っていいよね?って
その話題の方を優先して欲しいくらい、本人というものは自覚がないものだね。
結局犬は「世話が出来ないに違いない」という理由から次の日、俺が学校へ行っている間おばあちゃんが捨ててくる事になった。融通の利かない家族に頭きたし、それ以上に連れてきて一人ぼっちにさせてしまう事の罪悪感があった気がする。

次の日。学校へ行ったら朝の会で「ピペポ君が家に帰ってこないという事で、おうちの方へ電話が行ったと思うけど、無事見つかりましたので」という内容の話が先生からされ、「ゴメンナサイ」とクラスに公式に謝った。
もちろん友達の心は好奇心で散々家で聞かれた「どこ行ってたの?」「誰といたの?」「なんで家に連絡しなかったの?」の質問攻めにあった。おまけに最後には「バカジャン」って馬鹿にされた。
 それでもやっぱり犬のことが気になってた。
「今ごろどっか捨てられてるんだろうな・・・・」って
放課後
学校の近くで「あれピペポの拾った犬じゃないか?」という目撃証言があった。
昨日現場にいたべっちゃんがその友達と一緒に確認に行き、お墨付きをもらった。
そうして犬がまた家へきた。
二度目となると観念したのか「飼ってもいい」といわれた。
念願の飼い犬誕生! 口に出すと恥ずかしいから犬との会話は心の中でこっそりする事にした。
新しい親友は俺の誕生日に近い2月中旬。なので勝手に2月19日にした。
俺のぴったり一ヶ月前。運命みたいでうれしいから。
そうしてたくさんの秘密の決め事を楽しみながら、青いバケツの中で、牛乳の入ったイチゴパックの隣に寝ている犬を見てた。
そしてもちろん名前は「ぽち」に決めた。
「ありふれすぎ」と言われたときのために「あまりにありふれてるから、他につける人いないじゃん。だから逆にいいんだよ」という言い訳も用意した。準備万端!

でもお父さんは一人で「ゴン」と呼んでいた。

いつもお父さんは自分だけの名前をもっている。

そして同じ班の鏑木さんの犬は「ポチ子」だった。