エアーガンとおじさん
中学一年生の頃 俺達の間でエアーガンが流行っていた。 この頃は刀とか鉄砲なんかがまだ正義のための武器でしかなかったからか、 ただ純粋にカッコ良かった。 俺のお気に入りは「ベレッタF92」、弾が何発も入るライフル系より男っぽくて気に入ってた。 休みの日にはたまにエアーガンを持ってる友達と、近くの公園で「打ち合い」という戦争ゴッコをしてた。ルールは簡単「敵味方に分かれ、3発打たれたら死ぬ」 「打たれたかどうかは自己申告制」というチト穏やかなもの。 たった3発でゲームが終わってしまうから隠れる場所の多いナイス戦場を探さがしてた。 なので人数が集まらない日は「打ち合いの場所探し」という名目で、時には遠くの公園まで自転車で遊びに行っていた。そのおかげでか今でも我孫子近辺の公園は良く知ってる。 ある日。 キラーと手賀沼沿いの北柏の公園に行った。 俺らにとってはまだ未開拓の公園だから、ひと通りの遊具で遊んだ。これ基本だね 公園より少し低い所に、背の高い草林があった。 田んぼ二つ分くらいの広さの平らなその草林には、幅のある獣道がランダムに出来ていた。 まさに天然の要塞。 俺らは「この公園は良い」と太鼓判を押して帰った。 数日後。 同じクラスのアヒル君は突然「爆弾作ったんだけどテスト出来る場所知らない?」っと意味不明なことを言った。そう、アヒル君はいつも何かを作ってる。 ・・・中学1年の一学期の中間テスト最終日、人生初のテストを終えた開放感に浸っている俺に、「一緒にゴミ拾い行かないか?」と誘ってきたのがきっかけで仲良くなった。 アヒル君の野望はロボットを作ること。 その部品を集めるためにゴミ拾い行きたいのだ。それから何度も一緒に行った。 だって、ロボット=ドラえもんだもん。俺も小型で動くロボットを作りたかったから楽しかった。 アヒル作のヘンテコアイテムはいくつもある。 @エアーガンの弾にガビョウをつけて発射できる鉄砲。壁に刺したり出来る (これは弾が重くてあまり飛ばない) Aお手製のスタンガン。 (これはとても痛い。痛すぎ) Bラジオの周波帯に割り込んで家のラジカセから声を出せるマイク。 (直接声が聞こえないくらいの少し遠い距離で電波が届かなくなる) などなど。。 すごいけど微妙な作品の数々。。 そしてその歴史に燦然と輝く金字塔「アヒル爆弾」。 爆竹の火薬をカメラのフィルム入れるケースに集めて作るらしい(努力家だねぇ) のちに近くの中学校で同じような爆弾作った生徒が学校で暴発させ、本人が大怪我するという事件が起きてからは作られてない。 そんなアヒル爆弾の試験爆発の場所として俺らが選んだのはもちろん、あの草林。 アヒル。キラーと三人で早速休みの日に出かけた。 適当に離れた場所に避難して、着火役のアヒル君を見守る。危険担当アヒル。 アヒル君は動かないようにしっかり爆弾を地面にセットし、ガスバーナー(アヒルグッツ)で着火。 俺とキラーはなんか悪い事してるような、好奇心でいっぱいで笑いながら見つめていた。 アヒルは導火線に火がついたことを確認してからこっちへ全速で走ってきた。 だがしかし。 「あれ?」 爆発しない。 アヒル君も俺らの近くまで来て首だけ伸ばすように、導火線の状態を遠巻きに見た。 少し待ってみても爆発は無い。 「おっかしぃなぁ」 「まさか途中で火が消えたんじゃないの?」 「マジで?!」 「いやぁ そんなこと無いよぉ」 「ちょっとアヒル君見てきてよ」 「えー ちょっと見てきて」とお互いの体を押しあい。 結局3人で見に行った。 よくドリフターズのコントでこういうの見たことがあった。近づくと突然導火線に火がついて、噴射口がこっちを向くやつ。近づきながらそんな場面を思い出していると。 「あっ!」 「導火線がこんな短くなって切れてる・・・・」 「げっ。。」 「よし着火よろしく」 とまたアヒル君を置いて非難。 渋々か火をつけたアヒル君は真面目な顔でこっちへ向かって全力疾走して来た。 とその時後ろで。 「ドーーーン!!!」 大爆発。 アヒル君の疾走の後ろで、仮面ライダーとか特撮番組で見た煙が爆風と共に上へ昇って行った。。 「ちょうウケル!」 緊張の解けた俺ら二人は大爆笑。ちょっと疲れた様子のアヒル。 「全然デケーじゃんあれ、あっぶねぇ〜」 「おかしいな。。火薬の量少なくしたのに。。」 「あれでか!」 「ホントの量なら大変じゃん!」 爆発現場に戻ってみると、直系30cmくらいのクレーターが出来ててまた笑った。 「アヒルは怒らせると爆弾でやられるから気をつけよう」 キラーと俺は当然のように心に刻むのであった。 そうして小さな冒険をして公園へ上がり、キラーの得意な遠投やエアーガンで木になってる果実を射撃をしながら遊んでいると、「君達っ」と大人の声がした。 俺はとっさに「さっき爆弾で遊んでたの見られておこりに来た」と思った。 しかし声のする方を見ると、おじちゃんくらいのランニングシャツに半ズボン、首に白いタオルをしたオジサンが目を輝かせて立っていた。 年齢は60〜70歳くらいだろうか。歳を重ねているようにも見えるけど、見るからに元気でハツラツしている。 だからおじいさんとは言えないで、「おじさん」というのがしっくりくる。 「君達が持ってるのは鉄砲ですか?」 「そうです」 活舌の良い口調で話し掛けてきたおじさんは、どうやら鉄砲に興味があったみたいだった。 俺達はとっさに話し掛けられても、しっかり敬語で返せる歳になっている。 「私も昔戦争に行ったことがあってね」 そして背筋を伸ばし、足を肩幅より少し開いてライフルを構える真似をした。 俺は怒られるのかと思ってたから安心した。 「知らない人に話し掛けられても無視しなさい」って家や学校で教えられてきたけど、ホントに害になる可能性のある人なのだろうか。むしろ口うるさい先生達より俺達に近いところにおじさんがいるように思った。 それからおじさんとそこでしばらく話をした。 おじさんは一人暮らししていて、マンションなようなものをやっていて若者に部屋を貸しているらしい。 俺達はそれからも数回その公園でおじさんに会った。 家に帰ってその事を誰にもいえなかった。 別に悪い事している気は無いのだから、胸を張っていえるのに。 おじさんを「怪しい人」って誰にでも思ってもらいたくなかったからなのか、言う事で邪魔される気がした。 確か他のみんなも家族には言ってない。 「これからおじさんの家に来ないか?」 そう誘われて着いて行った。 途中コンビニで「これで何か買ってきなさい」そう言ってお金をくれた。 おじさんは丁寧に俺達子供に対しても敬語を使ってくれた。でも敬語の中にやさしさが感じられたから親しめた。 「これ、悪いから」ってちゃっかり買ってもらっておいて<イカのツマミ>を渡した。 「気を使ってくれてありがとう」 お礼を言ってくれた。 おじさんの家は全体が濃い灰色の近代的な作りのマンション。 マンションというには小さかった気がする。円形の建物内の中央には広いスペースがあった気がする。 「いつか君達が大人になって、自分の意志だけで泊まれるようになったらここに遊びに来て泊まりなさい」 「いいんですか?」 「すげー」 「約束しよう」 もちろん大人になるのはまだまだ先のことだから、現実味無い計画なんだけど、俺達は帰り自転車に乗りながら中学校を卒業したらきっと泊まりに行こうと計画をたてた。 中学一年が無事過ぎ。キラーは茨城県に引っ越す事になった。 アヒルとはクラスが違くなった。 もちろん、たまに会って遊んでいたけど、約束のことは話されなくなった。 小さい頃のレールは交わったり並行に進んでいる時、それが永遠であることを疑わないから、その時交わした約束に嘘は無いと思う。たとえそれが叶えられなくても。 キラーと車に乗っている時、その約束の話が10年近くぶりに出た。 「あのさ 前に北柏の公園行ったでしょ。そん時のおじさんの事覚えてる?」 「ああ もちろん」 それからお互いの記憶を試すかのように色々な話した。アヒル爆弾の話も。 「家探してみようか?」 それからずいぶんと探してみた。 あの時寄ったコンビニや、登った坂道。 途中みつかったらどうしようか、話し合った。 もちろんどうやって話し掛ければ、自分達を認識してもらえるのかについてだ。 でもおじさんの家があっただろう所の近くには、新しく大きな道路が出来ていて発見できなかった。 もしかしたらもう無いのかもしれない。。 約束守れないかもしれません。残念。そしてゴメンナサイ。。。 大学3年の頃。 大学の近くの公園で一人で遊んでいる子供がいた。 まだ小学生中学年くらいだろうか。やけにふてくされてて、「どうしたの?」って話し掛けたら すごく生意気に「ブランコ押して!」とか色々注文された。 少し懐かしくなって「木登りとかしないの?」って聞いたら、「俺できるよ」って自慢下に木に立ち向かっていった。 その子の年齢の頃には容易に登ることの出来ただろう木。 その子は登れないで「おいっ 助けろっ」と支えてあげた手や頭を蹴りながら上へ登った。 もちろん降りれなくて抱きかかえながら降ろしたんだけど、子供のやわらかさにビックリした。 「明日はここに来るのか?」 帰り際そういわれて「この近くにいるけど公園には来ないんだよ」って言った。 俺とじゃなくてもっと同い年の友達と木登りでも何でも、一緒に遊んでたくましくなるんだぞ。 っていう気持ちで色々な事を言った。 生意気な子供は言い訳しながら聞いてた。 きっと「俺今良い事してる」ってどっかで思いながら遊んでいたんだろうけど、それだけじゃないと思いたい。 おじさんの気持ちが少しわかった気がした。 |